- ISSUE#03-1
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REVIEW – Plastic Ocean
November, 2021
November, 2021
Exhibition #03 “Plastic Ocean”の作品をレビューしながら、それらが指し示す海洋汚染やプラスチック問題について触れる。
グラフィカルでキャッチーな鳥のモチーフ。松原光の作品は一貫して、シンプルな線を使いながらポップなモチーフを描いているが、そこにはいくつかのレイヤーが存在している。ここ数年は、あるグラフィックに異なるテクスチャーでラインを重ねることで、下地の絵に違った意味合いを持たせる手法をとっている。
そういった意味合いで再度この作品を見ると、単なるキャッチーな鳥のモチーフにいくつかのレイヤーが見えてくる。腹の部分が本来の内臓とは思えないカラフルな色合いをしており、また、その臓器の中には別の色彩豊かで細かな物質が存在している。そしてそれらを覆う鳥の腹を一歩引いてみれば、そこが髑髏に化けていることが見てとれる。これが松原光の作品が持つ、複数のレイヤーを掛け合わせる力とも言えよう。そのレイヤーは時に対照的な要素や意味合いを掛け合わせることで、その作品が放つメッセージ性を深く印象付ける。そして、キャッチのように描かれた「END PLASTIC WASTE」=プラスチックごみを終わらせよう、という文言が表す意味とは?
■プラスチックを食す動物と現代人
作品中で海鳥の足に引っかかっているビニール袋や海に漂うペットボトル。現在、海に排出されるプラスチックごみが問題になっているのは、誰もが多少なりとも知るところであろう。2020年7月のレジ袋有料化やスターバックスの紙ストロー提供など、生活に関わるところで何かしら意識せざるを得ない場面に直面しているはずだ。
プラスチックごみをきちんと捨てていれば、適切にしかるべき処理がされていると思っているが、実際はそうではなく、様々な理由で海に行きついているものがある。既に世界の海に存在しているといわれるプラスチックごみは、合計で1億5,000万トン。そこへ少なくとも年間800万トン(重さにして、ジェット機5万機相当)が、新たに流入していると推定されている(*1)。現状のペースで増え続けると、2050年までに海のプラスチックごみは魚の量を上回るという衝撃的な試算(*2)は、近年耳にすることが多くなった。
プラスチックは人工的に作られた化合物で、自然界に出ても分解されずに残り続ける。劣化したプラスチックは、波や太陽光などによって細かく砕け、直径5mm以下の破片を「マイクロプラスチック」と呼ぶ。そこで冒頭の作品に戻る。海鳥には自然界に存在しないプラスチックという物質を見分ける能力はなく、その90%が餌と間違えてプラスチックを摂取してしまう(*1)。摂取したプラスチックは消化されることなく腹の中に溜まっていき、やがては餌を摂ることができなくなってしまい、死んでしまうのだ。
その影響はもちろん海鳥だけではない。魚類やウミガメ、アザラシなどの海洋哺乳類など700種類を超える海の生き物が、プラスチックを摂取したり魚網に絡まるなどして傷つけられたり、死んだりしている。そして、食物連鎖によって、プラスチックを摂取した魚を食べる人も、平均すると毎年100,000粒のプラスチックの小さなかけらを摂取している。重量にすると最大の想定で、1週間でクレジットカード一枚分の5g、1カ月で21g、1年で250gとなるそうだ(*3)。
■還ることのないプラ、浄化されることのない海
香港出身、現在イギリス在住のDon Makはこの珊瑚海という作品で、今にも沈んでいこうとする香港島を描いている。海中には魚網が絡まっているサメや、珊瑚に絡まるビニール袋やペットボトルなどが描かれている。Don Makは普段、この柔らかなタッチの水彩画で、楽しげで煌びやかな香港の街を描くことが多い。しかしこの作品では対照的に、憂いを帯びた色調が表現されている。気候危機によって海面が上昇し、やがて香港島が沈んでいってニンゲンがいなくなれば、死滅した珊瑚がいつか再び復活し、ごみに侵された海もやがては浄化されていくであろう、という皮肉なメッセージが込められている。
プラスチックの年間生産量は、過去50年で20倍に増大した。しかし、これまでにリサイクルされたのは、生産量全体のわずか9%に過ぎない(*1)。プラスチックは先に述べたように自然界に還っていかないので、実際はDon Makが込めたメッセージのように、やがて海が浄化されていく現実はもうないのだ。我々はこのまま、海に漂うプラスチックごみを増やし続けてしまうのか。
日本に関して言えば、プラスチックの生産量では世界第3位で、1人当たりの容器包装プラスチックごみの発生量については世界第2位となっている。それだけの量を排出する一方、そのうちの22%のみがマテリアル・リサイクルという形でリサイクルされている(*4)だけだ。しかも、その大部分を輸出に頼っており、処理体制が整っていないアジアの途上国に押し付けるような形になっている。残りのうち、57%はサーマル・リサイクルという名の処理をとっている(*4)が、これはプラスチックを燃やした熱量を利用するというもので、海外ではそれをリサイクルとみなしていないし、CO2を排出するこの方法では温暖化への影響も懸念される。
■From re-cycle to re-think
リサイクルが機能することも大事だし、プラスチックをなるべく使わないにはどうしたらよいかを考えることも必要であろう。だが、プラスチックを代替したところでそれが紙であれ布であれ何であれ、それも地球の資源の一部だ。マシなモノを探すより恐らく一番重要なことは、モノに対する見方や使い方そのものを見直すことではないだろうか。
この鷲尾友公による作品は、廃材を使用して作られている。そしてそこに様々な姿で描かれているモチーフからは、力強さや凛々しさ、そして優しさが滲み出ている。何かに奔走しているような様子や、強く佇む姿、中には現代的な機器らしきモノを使っている者もいる。それはまるで、現代までにニンゲンが様々な姿に変えていった海の化身のよう。彼らは今でも変わらず、時に優しく、時に狂おしく、そこに強く佇んでいる。
各作品の販売はこちら
*1 – WWF JAPAN「海洋プラスチック問題について」Oct 26, 2018
*2 – 世界経済フォーラム(スイス・ダボス)Jan 2016
*3 – WWF「Assessing Plastic Ingestion From Nature To People」2019
*4 – 環境省「プラスチックを取り巻く国内外の状況」
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