ISSUE#01
REVIEW – Climate Crisis & Melting Ice
June, 2021

Exhibition #01の作品より、「気候危機」がもたらす「海面上昇」をモチーフとした2作品のレビュー。そのレビューを通して、気候危機と海面上昇の問題に触れる。

町田ヒロチカ / Penguin On The Last Ice

町田ヒロチカ / Penguin On The Last Ice

ペンギンがビーチパラソルの下でくつろいでいる。その姿は優雅に見えるが、周囲の状況を見ると、どうやらそうでもないらしい。海は青々しく美しいが、椰子の木が海に咲き、寝そべるペンギンと同じ目線に居る。背後には自由の女神が半身浴をしており、ビルディングらしきものは、岩礁のようにその一部しか姿を現していない。

恐らく、その全てが海に流され、漂っているようだ。

これだけ雲一つない晴天であれば、その波は本来穏やかであろう。しかし、本来そこに在るはずのない漂流物により、複雑な畝りが生み出されていて、荒々しさと力強さを感じさせる。それがかえって、寝そべるペンギンを優雅に見せている。

ペンギンのいるその場所は、小さくなった流氷の上。とてもじゃないが、その氷がこのまま保たれるほど寒冷な地域には見えない。果たしてペンギンは無事に、どこかへ辿り着けるのだろうか? ペンギンの故郷はまだ、残されているのだろうか?

 

暖かくなる地球、溶ける氷河

ペインター・町田ヒロチカが描いた「Penguin on The Last Ice」。地球上最後の氷河でくつろぐペンギンの姿が描かれているが、氷河が溶けてなくなる現実は実際に起きている。グリーンランドを覆う氷床の融解量は、2019年に観測史上最多となる5320億トンを記録した(*1)。2020年も過去最速で融解は続き、全て溶ければ地球の海面を約7.4メートル上昇させるだけの氷がある。それだけの海面上昇が起これば、海抜の低い南の島の椰子の木は、この絵の通り、本当に流されてしまうだろう。

なぜ、氷河が溶けていくのだろうか。言うまでもなく、それは地球温暖化によるものだ。主に温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)が増え過ぎ、宇宙に逃げようとしていた熱が地表にたまりすぎることで、気温が上昇したり、地球全体の気候が変化する。

二酸化炭素の排出が急激に増え始めたのは、18世紀の産業革命以降のことだ。石炭や石油などの化石燃料を燃やし、たくさんのエネルギーを得るようになった結果、大気中の二酸化炭素が急速に増加した。つまりニンゲン活動が、温暖化をもたらしている。

 

平均気温は1度以上上昇

現在までに、世界の平均気温は産業革命前よりも、すでに1度以上上昇している。そのことにより海水の温度が上昇すると、海水の体積自体が膨張したり、氷河や氷床が溶ける。19012010年の約100年の間に19cm海面が上昇しており、このままいくと21世紀中には82cm上昇すると予測されている(*2)。近年では、これより深刻な海面上昇を予測する研究結果も多い。

この規模の海面上昇では、多くの湿地や干潟が浸水、水没することはもちろんのこと、1m上昇すれば日本の砂浜の約9割が失われる。大阪、名古屋はそれぞれ約26%の土地が浸水、水没により住めなくなると言われている。モルディブ共和国とマーシャル諸島共和国の全部が海に沈むなど、国土そのものが消失してしまう場所もある。

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