ISSUE#01-2
REVIEW – Forest Fire & Climate Crisis
July, 2021

Exhibition #01の作品より、「気候危機」と関連した「森林火災」をモチーフとする2作品のレビュー。そのレビューを通して、気候危機と森林火災の問題に触れる。

SUGI / Untitled

ペインター・SUGIが描いた、抽象的にも捉えられるこの作品からは、どこか憂愁の念が感じられる。SUGIの作品では、通常、モチーフがはっきりと描かれていることも多い。また、色合いも鮮やかで明るい傾向があるため、本作からは余計にその憂いを強く感じる。

白く燻っているように見えるのは、煙ではなく燃える炎を描いており、森林火災をモチーフにした。ただ、絵画の大前提である「飾る」ことを念頭にした際に、飾りたい作品にすることと、当展示コンセプトである「気候危機」や「森林火災」を暗に表現することの、自分なりのバランスを突き詰めた作品だ。それが、彼のスタイルからより抽象的で憂いを帯びた表現を引き出したのだろう。筆だけでなく、手で直接描いた箇所もある。

■世界で燃える森

近年、深刻な森林火災が世界中で発生している。メディアやSNSで多く報じられたために皆の記憶に新しいところでは、オーストラリアでの森林火災があるのではないだろうか。2019年9月に発生して以来、前例のない規模の火災が長期間に渡り発生した。北海道2個分にあたる面積、1,700万ヘクタール近くが焼け、33人が亡くなり(*1)、10億匹以上の動物が命を落としたか、生息地を奪われた。最近の調査では30億匹という数字の可能性もあげられており、その数は計り知れない。

アメリカ・カリフォルニアでは2020年、過去最悪の規模となる山火事が起こった。年初から10月までの時点で、数千戸の住宅が破壊され、31人が死亡。電力供給は停止し、6万人以上に避難命令が出された(*2)。サンフランシスコの昼下がりは赤く曇り、青空を失った時間が続いていた。

また、北極圏も燃え続けた。2020年6月20日、地球上で最も寒いと言われる街、ベルホヤンスクで摂氏38度を観測。北極圏の過去最高気温を記録し、シベリアでは2020年の初めから7月までで森林が燃え続け、観測された焼失面積は1,900万ヘクタールに及んでいる(*2)。

 

■気候危機と森林火災の関係

環境問題活動家は、こう言うだろう。これは気候危機のせいだ、と。そして、多少なりとも環境問題に関心のある人々も、森林火災に関するニュースを目にする度に、何となく同様の意識が働くのではないだろうか。しかし、そこで報じられている森林火災の深刻さは伝わるものの、火災が発生した最初の原因ははっきり分からないのか、あまり報じられていない。本当に気候危機のせいなのだろうか?

森林火災の原因は、落雷や乾燥、高温による自然発火と、放火やニンゲンによる火の不始末などといった人為的要因のどちらかである。その割合については調べれば調べるほど、様々な情報が出てくるが、あるデータには驚いた。オーストラリア・モナシュ大学の講師であり自然災害専門家のポール・リード氏は、2019年11月に発表された研究結果の中で、1997〜2009年の間に起きたオーストラリアの森林火災の87%は、人為的原因で発生しているという。40%は意図的な放火やいたずら、47%は不注意によるものだと……! 衛星による調査だそうだ(*3)。

また、年間では平均62,000件の森林火災があり(そんなに!)、落雷が原因のものは13%。その程度なのか。てっきり気候危機が直接的な発生の原因だと思ったが、どうやらそうではないらしい。ただ、同時にいくつか分かったことがある。

森林火災自体は過去からずっと、想像していたより相当多い件数が起こっているということ。逆にいうと、それなのに近年は過去に例がないほど大きく、深刻に被害が広がっている。それには少なからず、気候危機による高温や乾燥、少雨などの影響がありそうだ、ということも言える。

また、二酸化炭素を吸って酸素を生み出す森林が燃えて減少すれば、気候危機を更に促すだろう。そればかりか森が燃えることで相当な量の二酸化炭素を排出してもいる。気候危機だけのことでなく、そこに住む多くの生物が命を落とし、住処を奪われ、生態系にも変化をきたす。

そして何より、森林火災、だいぶ減らせるってことではないのか! だって原因のほとんどで、ニンゲンが火をつけていることによるものなんて。

■Fire In Daily Life, 私の火

小磯竜也 / Fire In Daily Life

小磯竜也は本展の作品「Fire In Daily Life」にて、これまで述べたような森林火災に見られる「遠い火」と、日常生活で使われる「近い火」の両方が、雑誌の広告に並んでいるような面持ちで、同等に扱われるよう描いた。つまり、そのどちらも同じ「火」であるということだ。

先にも述べたように、ニンゲンの「近い火」がほとんどの森林火災の原因になっているのだ。そして、「遠い火」がニンゲンの日常に迫ってくることもある。それは、物理的に火が迫ってくる、ということだけでなく、森林が燃え続けることで気候危機が進み、それによる影響が自らの身に降りかかるかもしれない、という間接的な意味もあるはずだ。そういった意味で、どちらの火も同等なのだ、と訴えているのではないだろうか。小磯は、森林火災だけでなくあらゆる地球規模の問題を、「近い」「遠い」に関わらず、自分ごととして捉える視点を提示してくれているのだ。

作品中では、”I’m HUNGRY”と腹を減らしてステーキを焼いている。日常の「近い火」だ。だが、そのステーキ肉は、近所のスーパーや精肉店に突如湧き上がったイリュージョンではないだろう。一体、どこで育まれた肉だろうか? その過程ではきっと「遠い火」が何かを焼き払い、今、私たちの家で「近い火」と姿を変え、ステーキを焼いている。

 

 

*1 – PARLIAMENT OF AUSTRALIA “2019–20 Australian bushfires—frequently asked questions: a quick guide” March 12, 2020

*2 – グリーンピース・ジャパン「2020年に地球で起きたこと。気候変動の状況、残された時間は?」

*3 – Paul Read “Arson, mischief and recklessness: 87 per cent of fires are man-made” November 18, 2019

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