ISSUE#04-1
STUDY – Coast of Tsushima
March, 2024

Exhibition #04 “Plastic Coast”の主題となった海洋ゴミについて、日本の自治体で一番漂着ゴミが多いと言われている、長崎県対馬市を例にとって実態に迫る。

朝鮮半島と九州の間に浮かぶ列島、対馬。その地は古くより大陸から日本へ、人・モノ・文化が伝来する、交易や交流の重要な地となっていた。そんな島がこの現代では、海洋ゴミが流れ着く地となってしまっている。

対馬列島は日本海の入り口とも言える関所のような場所で、黄海や東シナ海からの海流や季節風の影響で、東アジア諸国から流れてくる大量の海ゴミを受け止め続けている。対馬市は、日本で最も漂着ゴミの多い市町村の一つであると考えられている(*1)。

近年の年間漂着量は毎年30,000m³以上と推定されていて(2トントラック3,000台分以上)、そのうち7割が中国や韓国等の海外由来だ。しかし、2018年を例にとって、その年で回収できたのは約8,500m³にとどまっている。毎年、漂着する量と回収できる量に大きな乖離があるのだ。加えて、国からの漂着ゴミ対策の交付金が減少している。2010年に5億円あった交付金が、2018年には2億9,000万円まで減少。人口減少・少子高齢化の影響で、今後も減額される可能性が想定される。

長崎県対馬市はリアス式海岸が美しく、海の透明度も高い。

 

鎌倉時代の元寇では蒙古襲来にあった対馬だが、現代の元寇のごとく大陸よりゴミが押し寄せている。

 

漂着ゴミとして、日常生活から排出されるプラスチックやペットボトルが海に流れ出ているのは広く知られていることと思うが、それ以外には漁業用ブイ、漁網やロープ、発砲スチロールといった、漁業から投棄されるプラスチックゴミも目立って散見される。

毎年全てのゴミを回収できていない対馬の海ゴミは、そのまま対馬の海岸に溜まっていくか、再漂流して海流に乗り、日本海に運ばれていく。結局は世界の海を汚し、時に海洋生物を傷つけながら漂流するか、日本のどこか世界のどこか、美しい砂浜を埋める漂着ゴミとして彷徨い続けるだけだ。更には、その過程において海水や日光に晒されることでゴミが細かくなり、マイクロプラスチックとして回収できないような大きさになって、海洋生物が誤食により摂取してしまう。多くの海洋生物がそれにより大きな健康被害を受けており、そしてニンゲンも、その魚を食すことでプラスチックを摂取しているのだ。

 

毎年これだけの量の海ゴミを回収するが、三分の一程度しか取りきれない。

 

それでも1袋1㎥の巨大な袋が一年で約8000袋、対馬のゴミ処理センターを埋め尽くす。

 

気候危機の影響で世界の海面は、1901年から2018年の間に平均して0.2m上昇した。このままいくと2100年頃までには、1995年から2014年の平均海面水位に対して少なくとも0.32m、最悪の場合は1.01m上昇すると考えられている(*2)。日本では、1m海面が上昇すると、90%以上の砂浜がなくなってしまうそうだ。

詰まる所このままでは、砂浜の代わりにプラスチックで埋もれた海岸や砂浜が出来上がっていくかもしれない。それは皮肉にも、人工的で色彩豊かなカラフルビーチ。未来のニンゲンはそんなPlastic Coastで海水浴を楽しんでいるのかもしれない。そして、それは既に対馬で起こり始めている現実でもあるのだ。

 

*1 – 環境省「漂流・漂着ゴミに係る国内削減方策モデル調査総括検討会報告書(平成20年度) 第1期モデル調査(7県11海岸)」を基に評価

*2 – IPCC6次評価報告書第1作業部会報告書(2021)

OTHER ISSUE